明滅する春と修羅 1


Timeline: One morning in spring at YURIEV Institute
x




 明滅する春の風景は淡い。
 時間と世界に忘却されたままの空間は、嘆く音もなく季節だけを刻んでいる。威圧的でさえあったユーリエフ・インスティテュートの白亜の建物は時とともに風化し、乾いた建物の表面は削られ崩壊していた。ちぐはぐに突出した陳腐な骨格を残し、周囲には砕けた瓦礫が雪のように積もっている。ただ、雪と違って白い瓦礫は溶けることがない。主人を失ったダイブポッドや端末の残骸は、瓦礫に埋もれたまま延々と天を仰ぎつづけている。
 年月の波に流され、ひどくあせた白い屋内庭園には、静謐な春の温もりが靄となり漂っている。常に空調で管理されていた頃に比べ、環境虫もドロイドも機能を停止した現在の庭園の気候は、冬の訪れに凍てつき、春の光に暖かく熱る。その寒暖差は無人の施設で植物の成長を促し、むせ返るような緑を生みだしていた。瓦礫を縫うように這う様々な種類の植物は、適度に湿り気を帯びた空気の中で艶やかに葉を繁らせ、庭園の空間に仄かな草いきれを放つほどである。花壇や地面からはビロードのような雑草が溢れだし、瓦礫の隙間で唯一ハルジオンの小さな花々が寄りそうように咲いている。死滅した観賞用植物を押しのけ、野花は実に逞しく背を伸ばしていた。
 アトリウムの庭園を覆う天窓も、植物の熱気で不透明な曇りを帯びている。放射状に伸びた梁に何本もの蔓状の植物が絡みつき、頂近くまで這いのぼったその先端を幾筋も垂れているさまは、樹海のようにも見える。
 天窓は風雨で崩落した部分も多く、遮断物のないクリアな青空から気まぐれな小鳥たちが降りたち、戯れに瓦礫の上を飛びはねていた。天窓越しの曇り空とは異なり、遮断物なしに仰ぐ空は高く青い。宇宙を透かしたような空に薄い雲がゆったりと流れ、柔らかな春の光がカーテンのように揺れながら、瓦礫の楽園へ射しこんでくる。遠い昔は徹底的に管理されていた庭園だが、管理者もおらず環境虫も絶えた中では、宙を漂う無数の埃を咎める者もいない。
 一切の風も音も存在しないこの空間で、小鳥たちの陽気なさえずりは瓦礫の奥へ滑りこみ、底に落ちて反響する。長らく孤独な彼にとって、生前は食料の対象として目に映していた小鳥たちの音楽を聞き、意味のない戯れを観察することが今や唯一の楽しみとなっている。毛布のような緑の絨毯に包まれ、裏庭の林の奥で墓守をしながら眠る日々。緩やかな永遠が終わる日を、彼はひとり待ち望んでいた。


 ォーン……。
 小鳥の鳴き声に混じり、寂寥の空間に一音が響く。さえずる小鳥とは別の、伸びやかで美しい音。それが、雲の切れ間を裂くように、まっすぐ突きぬけた。
 ポォーン……。
 間を置いて、また一音。先程よりも明確な音である。音の余韻が波のようにうねり、静寂にのまれてゆく。それがピアノの音であることに、彼は気づいた。
 かつては病棟であった廃墟の一階フロアに残る一台のグランドピアノは、損壊することもなく風化することなく、まるで何者かに守護されているように現存している。その昔、ピアノの所有者であった顔のない少女は、よくこの曲を演奏していた。何度も何度も繰り返し、同じ曲を弾きつづけていた。彼は飽きることを知らなかったので、変化のない彼女の演奏を聞くことを好んだ。それを覚えている。しかし、ある日を境に少女は姿を見せなくなり、音楽を嗜む者のいないインスティテュート内で、そのピアノは静かに役目を終えていたはずである。
 彼女が帰って来たのかもしれない。その可能性を考えた彼は、病棟の庭園から壊れた柵を飛びこえ、半壊したピアノの部屋を覗いた。嵌め殺しの窓は割れ、部屋の天井に大きな穴が開いている。その穴から降り注ぐ淡い光が、部屋の中央に置かれた黒いグランドピアノを照らしていた。光の中には綿のような埃が舞っている。ピアノの周囲で白い瓦礫が重なりあい、黒光りする上蓋にも苔のような埃がたまっているが、この空間だけは神の加護でも受けているかのように神聖に見える。
 ポォーン……。
 部屋中に反響する、こもった音色。調律が必要だとでも呻くように、余韻の音程が上下する。ひとつ前の音に次の音が重なると、不協和音がこだました。光の布が音に揺られ、和音が空気のように部屋を満たしている。
 白と黒、そして細い光しかないあせた空間。その排他的な空間に、いささか不似合いな色が混じっている。迸る鮮血のように、艶やかな赤。赤毛の人間らしき者が、ピアノの鍵盤を叩いている。その男が少年か青年か、彼には区別がつかなかった。瑞々しくしなやかな肢体は少年のように幼くも見えるが、それらを備えた精悍な青年のようにも見える。真っ黒のコートを着込み、左耳の長いピアスを光に反射させる姿も、子供と大人の判断がつかない。何より、華奢な体躯からは計り知れない奥深い闇を、彼は対象の内に感じとっていた。得体の知れない不気味なものを感じた彼は、この人間を青年と見ることにした。
 青年はピアノの横に用意された椅子に腰かけることもとなく、直立した姿勢のまま鍵盤を叩いている。
 ポォーン……。
 血の気の薄い右手の人差し指が、ゆっくりと白い鍵盤を押す。先程とは違った高さの一音が、部屋中に満ちてゆく。青年の顔に一切の表情はなく、ピアノの音色を楽しんでいるとも思えない。ただ一音一音を叩くたび、それを全身に沁みこませるかのように余韻を聞いていた。ピアノとともに光の輪に囲まれた赤毛に、ちらちらと埃が付着しているが、青年は指以外の部位を動かそうとしない。その瞳は明々な青でありながら、深い憂愁の紺を灯している。
 指先が撫でるように鍵を叩いては、次の鍵へ滑らかに移動する。時折、弦が切れているのか押しても音の鳴らない鍵もあった。それでも青年は睫毛を落としたまま、ここでピアノを弾いていた少女のように、一心に、ただ鍵盤を叩きつづける。それは祈りのようにも償いのようにも見えるほど、紳士的な行為であった。
 ポォーン……。
 あまりに緩やかで、旋律がつながることはないのだが、これは少女が弾いていた曲である。こと優しく物悲しい音色と旋律。飽きることなく彼女の曲を聞きつづけた彼には、拙く奏でられる曲を理解することができた。そう気づくと不思議なことに、椅子に座ってピアノを弾く少女の姿が鍵盤を叩く青年の隣に見えるような気がしたので、彼は二人の演奏をじっと見守っていた。
 ォーン……。
 最後の一音の鍵を押しこんだあと、青年はようやく顔をあげた。その表情には満足の色もなければ、わずかな微笑もない。無表情のままピアノに置かれた紙の譜面にその指が触れると、譜面は掬いあげるより先に砕けちるようにして塵に変わった。乾いた地面に散らばった紙片を覇気のない眼で一瞥し、青年はピアノの部屋をでた。


 天窓の割れ目から射しこむ光が、赤毛を艶やかに輝かせる。春のぼやけた緑に埋もれてなお、その色は鮮やかに存在を主張している。むんと匂う草いきれに鼻を曲げることもなく、青年はビロードのような雑草の上を歩いてゆく。草を噛むような足音など、とうの昔に忘れていた。施設そのものが地上から離れた高所に建造されていたため、侵入する生物など好奇心旺盛な鳥たちか、植物と運命をともにしている昆虫たちくらいのものなのである。
 朽ちて倒れた庭園の外灯を、青年がにべもなく跨いでゆく。絡まりあう蔦でクッションのようになっているベンチから、一羽の小鳥が珍客を眺めていた。崩れたモニュメントを青年が跨いだとき、虫の羽音のような機械音が鳴った。
「る、る、る」
 音の方向へ、感情の読めない青の双眸が向けられる。視線の先、花壇の草むらにドロイドの頭部転がっていた。ドロイドを知らない人間が見れば、雑草でつくったボールと間違えそうなほど憐れな姿である。ひどく錆びつき赤褐色になった円柱型の頭部で、瓶底を思わせる赤い目玉が点滅していた。青年は一度だけ瞬くと、臆することなく両手でそれを拾いあげた。剥がれた錆が音もなく、両の掌から零れおちた。
「る、る、る―るべど、サ、サ、サ、サン―」
 ドロイドの外れた口が、かたかたと音を立てる。ずいぶん昔に録音されたような音声は、発音が不明瞭なため聞きとり辛い。この施設内で機能を維持している個体があることを、彼は今まで知らなかった。あのドロイドは、施設が破棄されてすぐの頃から草むらの奥に転がっていたが、一度たりとも起動する気配などなく、生長する植物に埋もれてゆくばかりであったのに。
「―ヨウコソ、ヨウコソ、オカエリナサイ―ば、ば、ばらガ、咲キマシタ―ばら、赤イばら、白イばら、黄色イばら、咲イタ、ヨ―黒イばら、ハ、特別―」
 青年の両手に包まれ、ドロイドは赤い目玉を白、黄色、黒、再び赤へと変化させて見せた。甲高くわななかせた音声に驚いたのか、虫を啄ばんでいた小鳥たちが、瓦礫から一斉に飛び去ってしまう。
「ああ。ミルチアへ出発する直前、見せてもらったよ。どのバラも図鑑よりずっと、きれいだった」
 青年の声は、平静の中に深い慈愛を含んでいた。どんな遠い脳にも届くよう、ゆっくりと言葉を紡いでいた。ドロイドを見つめる表情は、影になり読みとれない。長い睫毛が震えているようであった。
「ありがとう」
 少しの粗さもなく滑らかに囁くと、青年は塞がった両手を自分の鼻先まで持ちあげ、本来の光沢を失ったドロイドの額に小さなキスを贈った。ドロイドの瓶底目玉は一体何を示すのやら青に点滅していたが、十二度目の瞬きで完全に光を失ったらしい。忙しない点滅が消えると、目玉は曇った瓶のように不透明な色になり、機能を停止した。草むらに埋もれていた今までのように、青年の腕の中で、ドロイドは再び散らばる瓦礫の一部と化していた。
 青年はドロイドを抱えたまま、花壇の中に足を踏みいれた。花壇といっても、繁殖した植物で地面との境界線は失われており、辛うじてくすんだレンガと柵が見え隠れしているだけである。その柵に囲われた緑を見渡しながら、青年は慎重に歩き回り、ハナミズキの大樹の根元にドロイドの胴体を発見した。それは頭部と同様に錆びつき、棒切れのような細い手足には蔦が絡まっていた。人間でいえば、ちょうど心臓にあたる部分の枠の隙間―そこから、ハルジオンの花が一本だけ飛びだしている。白い花を咲かせた大樹からの木もれ日を受ける胴体は、首から上がないものの、まるで眠っているようだ、と彼は思った。
 青年は抱えていたドロイドの頭部を、みすぼらしい胴体の横に丁寧に置いた。大樹から落ちた白い花弁が頭部にあたっても、ドロイドの目玉はもう点滅しない。やがては緑に錆ごと覆われるであろうドロイドを、無言で見つめてから、青年は黒いコートを翻し、緑の花壇を出ていった。


 かつての壮観な面影もない建物を横切り、青年は草いきれが匂いたつ緑の庭を歩いていた。葡萄に似た蔓が建物の崩れた外壁を覆い隠し、草木は自身の放つ酸素で周囲に靄を撒いている。割れた天窓の上から降雨があれば、植物は喜びに天を仰ぎ、さらなる生長を遂げてきた。
 今日の空は春の晴天で美しいが、天窓越しの空を映していた床は所々ひび割れてしまい、その上を歩く青年の靴も映さない。青年は足場の悪さを気にするでもなく、薄暗い双眸でまっすぐに正面を見つめ、実験棟のある研究施設の区画へと向かっていた。黒いロングコートの裾が蝶のように舞い、雑草のない地面に靴があたると硬質な音が周囲に響いた。再びドームの外から群れてきた小鳥たちが、珍しい訪問客の動向を警戒しつつ、物珍しさに小さく跳ねながら青年のうしろにつき従っている。
 青年が病棟のある区画をでたところで、小鳥たちは訪問客を見送った。開放的な空間を設け、人々が集う憩いの場所として建築設定されていたアトリウムの屋内庭園とは異なり、入出が厳重に管理されているセキュリティチェックが敷かれたホールは殺風景で威圧的なままである。ここは全フロアが吹きぬけ構造の円柱型のホールであるため数十階分の高度があり、各階の回廊が見える内壁部分もある。その中でも比較的上層に位置する病棟の区画からは、実験棟の区画に続く橋のような空中通路が架けられていた。階下や階上からも同型の空中通路が架かり、最上層から見下ろせば通路が網の目状に見える仕組みとなっている。青年のいる通路上から真下を覗いても、ホールの底の様子は判断できないほどに高い。少量の蔦が内壁を這うだけの空間には、最上層の天窓からわずかな光が届いているだけである。
 通路に設置されていた侵入者を防ぐセキュリティチェックのゲートや、通路を囲うU.R.T.V.用情報アップデートの円形型ゲートは、完全に機能を停止されてから建物と同様に風化し、上下に架かる一部の通路も崩落している。青年が空中通路の斜面をのぼりはじめると、風化した床下が不安定な音を立てて崩れてゆく。金属の露出した部分もあり、垂れさがった導線やらが蔓と絡まりあいながら揺れた。
 空中通路の中央まで到達したところで、青年は一度足をとめた。彼もすぐ傍で立ちどまり、青年のうしろ姿を見上げた。
「ガイナン」
 青年の声に、彼の耳がぴんと立つ。なみなみと張った水面のような静寂の中、波紋ひとつ立てない滑らかな声であった。振りむいた青年は、人形のように端正で寒気さえ感じるような無表情ではなく、凪いだ海のように静穏な眼差しと物柔らかな微笑みを浮かべていた。
「ガイナン」
 その名を呼ばれると、彼の体は疼く。今はなき全身の毛が泡立ち、咽の奥がぐるぐると鳴る気がした。その理由を思いだすことはできないが、ひどく懐かしい気分になる。青年の足元に頭を擦りつけたい。自由に操れる尾があったならば、肉のないふくらはぎに絡めたい。そんな不可解な欲望が頭をもたげる。小刻みに体を揺らす彼を見つめる青年は、通路の上に膝を折り、姿勢を低くして彼に両手を差しのべた。
「おいで」
 甘やかな声で囁かれれば、彼にはもう抗う気さえ起きない。そこが暖かな寝床であるかのように、彼は青年の腕へ潜りこんだ。年月の流れは施設の外壁とともに孤独な彼の記憶も風化させていたが、青年の腕に抱かれたとき、地面に染みこむ雨のように蘇るものがあった。
 この青年を待ち望んでいた。草の毛布よりも柔らかで温もりある腕の中、彼は自分の待ち人を思いだしたのである。赤い髪、青い瞳―それは確かに、彼が待っていた少年と同一のものであるが、憶の忘却以前に、彼の知る少年とはあまりに雰囲気が異なるものだから、それらの特徴を見てもすぐに少年だとは気づかなかった。改めて観察すれば、外見そのものにそう変化はない。赤い髪に青い瞳の少年が内包する何か得体の知れないものが、以前とは明らかに変質しているのである。それが何であるのか、彼にはわからない。青年の凛とした声質、向けられた笑顔、とうに忘れていた体温を感じ、ようやく今の青年と昔の少年をつなぐことができた。
「はは、幽霊かと思ったよ……いや、そうさせたのは俺か」
 半透明の彼の体を躊躇することなく撫でながら、青年は掠れた声で笑った。彼はもう自分が何者であったかさえ、おぼろげな断片でしか思いだせない。彼の時間は無機質な友人とともに流れ、その存在をともに忘却され、その記憶はともに朽ちていった。孤独であるという事実も、人間のように複雑な思考をもたない彼にはさして苦痛ではなかったが、自分をかわいがってくれていた主人と再会できたことをこの上なく嬉しく思う。触れる間もなく逃げてしまう小鳥たちや、物言わぬ植物の感触とは違い、青年の温度は眠気を誘うほどの安心をもたらしてくれる。気が遠くなるほど長き日々の乾いた記憶が、この束の間でじゅうぶんに満たされる。鳴らない咽を青年に撫でられると、自然と体が弛緩してゆく。急激な充足感に満足した。
 彼を抱えたまま立ちあがった青年は、再び空中通路を歩きだした。
「俺たちの部屋とか、あの人の書斎とか、ちょっと見回ってた。湿度調整の管理をしないと、紙の本はだめだな。どれも触れたら砂のように崩れたよ。ピアノは、まだ鳴ったのに」
 硬質な靴音に混じり、青年の独り言のような声が広々とした空間に反響する。遠い天井から光の帯の中、細かな塵が舞っている。それが口内へ侵入したのか、笑顔を歪ませた青年は、彼から顔を背けると軽く咳きこみ、落ちつくと再び無理に微笑みを向けてくれた。
「―脆いもんだ」
 どこか諦念を含んだ呟きは反響することなく、思いの質量でホールの最下層へ落下した。陽光を透かした輝くような赤毛と反対に、影に濡れた青い瞳は深く、夜の瑠璃に近い色合いを見せている。
「おまえ、ずっと待っていてくれたのか。あれから何年、経ったろう―」
 わずかに困惑した表情を覗かせ、青年は彼を頭上に掲げた。定型を持たない不安定な彼の体が、靄のような淡い光に照らされる。水よりも微視的な光は彼の半透明の体を突きぬけ、生命として機能することのなくなった臓器の類を鈍く艶めかせた。唯一、葡萄酒のような色をした筋肉質の心臓だけが、体の中心で律動的な収縮を繰り返している。
 彼の臓器を眺めた青年は、空気に揺らめく彼を抱き直し、熱のない体躯をあの頃と変わらぬ手つきで撫でた。大きな掌の感触は、清涼な水のようにも温柔な風のようにも感じられる。
「すぐに戻るって約束したのに、ごめんな」
 青年が緩やかに瞼を伏せると、赤い睫毛が彼の背に触れた。彼は窮屈な両眼を何とか動かし、間近にある青年の顔を覗きこんだ。閉じた瞼が半分ほど開かれ、たゆたう青のきらめきが見える。庭園の闇夜で光るブルーの電燈だ。自然色よりも危うく発光する、ルミネセンスのような光源。青年の鼻先を舌のない舌で昔のように愛おしく舐めた。青年は少々むず痒そうに頬を緩め、昔と同じ顔で微笑む。その左耳で、赤い輝石のロングピアスがからりと揺れた。
 あの昔、『どうか百年、待ってちょうだい』と、魔女に頼まれた。『どんな魔法も呪いも百年経たなきゃ叶わない、百年経たなきゃ解けないの』と、彼女は言った。その魔法を、この青年が解いてくれる。主人との過ぎ去りし日々を脳裏に開きながら、彼はブルーの光源をぐっと見つめた。